衣587GHQは「農地改革」をいかに進めたか~

衣587GHQは「農地改革」をいかに進めたか~

GHQは「農地改革」をいかに進めたか~「自作農創設特別措置法及び農地調整法の適用を受けるべき土地の譲渡に関する政令施行令」(橘 武夫・法制意見参事官)
Posted on 2018年7月5日 by garyusha

創刊第2号(昭和25年(1950年)11月13日号)の法令解説に、「自作農創設特別措置法及び農地調整法の適用を受けるべき土地の譲渡に関する政令施行令」(昭25.10.21政令第317号)〔橘 武夫・法制意見参事官〕が掲載されています。

マッカーサー元帥の『警察力の増強』に関する書簡と海上保安庁の強化」でも触れたように、ここでも「法律」を「政令」で改正しています。ここでの「政令」は、〔ポツダム緊急勅令〕に基づいて発せられた「ポツダム命令」を指しています(参照:FILE 2015.7.2)。

第一次農地改革は、昭和20年12月の「農地調整法の改正」により行われています。この改革について、橘氏

不在地主がもつていた小作地全部と、在村地主がもつてゐた小作地のうち、一定面積(全国平均で五町歩)をこえる部分の小作地と、この二つを合せて約一五〇万町歩(編注:1町歩は約1ha)の小作地を、小作農の希望を基礎にして、各地の市町村農業会が間に立ち、地主から小作農に対して強制的に譲渡させようとすることと、従来、物納だつた小作料を金納化させること、それまでは官庁の指名で選任されてゐた農地委員会を、地主・自作・小作の階層に分けて選挙制に改めたのであるが、これは小作地の解放に劣らぬ重要な意義をもつた改革であつた。」
(原文は一部旧字体。以下同じ)

と記しています。

 

さらに、国会で第1次改革について審議中の昭和20年12月9日、連合国最高司令官マッカーサーから日本政府にあてて「農地改革に関する覚書」が交付されたことを受け、第2次農地改革のための改革法案が、翌昭和21年9月の議会に提出され、10月に公布、同年中に施行されました。

この第2次改革の内容は、

「農地調整法のうち、自作農創設に関する部分が他の部分から切り離され『自作農創設特別措置法』といふ独立の法律になり、…大きな改革は、解放すべき農地の所有権の移動を、地主と小作農との間の契約で譲渡出来ることになつてゐた第一次の改革方式をやめて、市町村農地委員会のたてた計画により政府が地主から土地を買収し、これを小作農に売り渡すといふ方式をとるようになつたことである。なお、農地調整法についても、農地委員会の構成を改正して、小作農の発言権を強化し、新たに小作料の最高額を制限し、小作契約を文書化する規定を設けたりした。」

と解説されています。

その後の数度の改正を経ても、第2次改革の基本線は変わらず維持され、改革前の農地総面積の約44%・220万町歩余りを占めていた小作地のうち、190万町歩が政府に買収され、大部分が小作農に売り渡されたといいます。

こうして歴史的にも名高い「農地改革」が完成したかに思われた頃、マッカーサーから書簡が吉田茂総理大臣に届きます。その概要について、橘氏は次のように記しています。

「『農地改革が輝かしい成果を収め、全世界に対し、日本が民主国家として成熟期に入らんとしている事実を、もつとも雄弁に物語る一証例となりつゝある』ことに対して賛辞が與えられるとともに、『戦前の土地保有制度に歩一歩復帰する可能性を抑圧して、農地改革による利益を、日本農村社会の根幹として永続しなければならない』旨が強く指摘され、今や農地改革事業の大半が終りを告げようとするこの時期に、なお改革を完全に遂行しなければならない分野を検討すべきことが要請されたのである。」

これを受けた「自作農創設特別措置法の一部を改正する等の法律案」は、第7国会に提出されますが、当時の国会状況により成立しませんでした。農水省は総司令部と折衝を重ね、

「政府が農地の買収、売渡を継続するための基準を確立するような措置を即時にとる必要があると認め、あわせて、政府が第七、第八両国会に提案したものと類似の構想による強制譲渡方式を採用することが妥当であると認め、九月七日天然資源局ウィリアムソン農業課長から広川農林大臣あての書簡で、これらの措置をポツダム政令により実施すべきことが指示され、九月一一日にこのポツダム政令が公布される運びとなったのである。」

こうして制定までの経緯が語られた後、「二 譲渡令の内容」が詳細に解説されています。
目次を掲げておきましょう。

(1)自作農創設特別措置法に基づいて従来行われた政府の買収及び買取の制度についての特例
   イ 農地について
   ロ 牧野について
   ハ 未墾地その他について
(2)強制譲渡の制度
   イ 強制譲渡を命ぜられる土地等
   ロ 強制譲渡の第一段階――自作農として農業に精進する見込のある者への強制譲渡
   ハ 強制譲渡の第二段階――政府への強制譲渡
   ニ 強制譲渡の効果
   ホ 対価及び政府への支払金
(3)その他の規定

占領下で行われた日本の農地改革は「世界で最も成功した事例」と言われているそうです。GHQの功罪は様々に議論されるにしろ、この農地改革は、日本国民にとって素晴らしい改革であったと強く思います。
(C.S)